クラブロクラブ

自然な波に乗せられて

ボイス・オブ・バカ

その日、眠りについたのは、朝日が昇ったあとの駅前の漫画喫茶でした。眠ったか眠ってないかというころにアラームが鳴り、しばしばする目を擦りながら会計を済ませると、駅前で友人の車を待ちました。ずいぶん前から楽しみにしていた友人宅への宿泊は土壇場で流れてしまったものの、少しの仮眠だけで朝早くから車を待つのは一泊二日の旅行に出かけるためです。メンバーは私の大学時代の相棒でもあるその友人と、共通の後輩でもあるその友人の奥さん、そして共通の先輩の4人、みんながみんな気心の知れた友人たちであり、この度は4人が共通に楽しんでいるものに縁のある地への旅です。

 

運転できるのはその友人と私の二人だったので、かねてから私も運転するからと言っていたのですが、この通り徹夜明けの寝不足な私に慣れない車を運転させるほど愚かではないので、結局その日は友人が最後まで運転してくれました。私は運転席の後ろが定位置となり、隣に座った先輩はこの日のためにと用意した音楽をスマホから流します。スマホはちょうど4人の中央に置かれました。助手席に座った後輩には、ほとんど私の声は届きませんでした。ちょうど間にある音楽に、私の声がかき消されてしまったようです。

 

目的の土地に着き、まずは腹ごしらえ、昼食はやはり海産物を食べたいということで、海鮮丼や各種定食がいただけるお店に入ります。私は散々迷った挙句、カマ焼き定食にしましたが、刺身も焼き魚もてんぷらも、どれを見ても美味しそうでした。

 

さて、昼食後に向かったのは、とある記念館。好きな人にはたまらない贅沢な展示物に加え、随所に遊び心がみられます。その一つに、直径10㎝に満たないほどの管が壁づたいに巡らされていて、同じマークがついた管の出入り口の一方から話をすると、もう一方から聞こえるというものがありました(説明が下手)。試しに、ということで、私と後輩でやってみます。まずは後輩が話し、私が聞きます。ずいぶんと離れたところにある出入り口ですが、確かによく聞こえます。ついで私も普段通り、つまりは雑音にかき消されてしまう声で話しかけると、後輩が大笑いしながらこちらへやってきます。曰く、物凄くよく聞こえる、と。先ほどまでの車では全然聞こえなかった声が、この装置を使うことで実に快適に聞こえる、それを先輩である私をいかにも馬鹿にしたように笑ってくるのです。

 

その記念館を隅から隅まで楽しんでいると、気がつけばしっかり2時間経っていました。宿へ向かう前にもうひとつ寄り道をしました。全国的にも有名なその観光名所は、私は以前一度来たことがあるはずなのに、記憶力がすこぶる悪い私は微塵も覚えていませんでした。さて、その一角におみくじがあるのを見つけた先輩は、私に勝負しようと声をかけます。おみくじで勝負、ということ自体がまったく見当違いなのですが、それはそうと、私と先輩はおみくじを引き、結果は吉と末吉で、私が勝ちました。

 

ちょうど日も暮れてきたので、宿へ。部屋に入り、夕食まで15分ほど。相棒と後輩はその間隙を縫って温泉に入ると言い、私と先輩はダラダラすることを選びます。2人が温泉に行っている間に布団を敷きに来た宿の方に、夕食についてオススメと反対にオススメしないものを聞きました。

 

楽しみにしていたビュッフェ形式の夕食では、オススメは2人と共有し、オススメしないものはあえて伝えないという遊びは当たり前ですが、結局オススメされたものもオススメしないものも、どちらもいまいちピンと来なかったので、4人とも食べませんでした。ともあれ非常に充実した料理の数々、とても贅沢な気持ちになります。ほとんど食べ終わりに近い頃、先輩の一言に対して少し馬鹿にしたようなニュアンスが出るように私がツッコミを入れたことから、4人の笑いのツボに入り始めました。ひと笑いふた笑いしたのち、後輩が今日二番目におもしろかった、と言います。一番目は、と聞くと、例の記念館で管を通して聴いた私の声だと言います。ここでも人に追い打ちをかけるように馬鹿にしてくるのです。

 

温泉に浸かり、部屋に戻ってから車の中で話題になったけれどもまったく答えが出せなかったことを調べては、それを必死に頭に入れる作業をして、もういい時間なので寝ることにします。楽しい旅の一日目はこうして幕を閉じていきます。

 

気がつけば、前の日の朝からほとんど寝ていないのに、もう40時間ほど、それまでなぜ眠くならなかったのかが不思議なくらいです。布団に入り電気を消すと、きっと私は30秒も経たずに眠っていたと思います。

 

もう一日、楽しみが待っている、何と素敵なことでしょう。